YAC VR / STATEMENT
これからはじまる、会期のない展覧会
― YAC VRと、一期一会から生まれる新しい地域性 ―
ヨコスカアートセンターは、これから「展覧会の会期」という概念を手放す、新しいプロジェクトを開始します。
アーティスト・ラン・スペースであるヨコスカアートセンターは、開設から5年が過ぎました。
アートを介した地域交流の創出を目的に、これまで多くの展覧会を開催してきました。
これまで展覧会には、始まりの日と終わりの日がありました。その期間に作品が並び、告知を見た人が会場を訪れ、会期が終われば作品は撤去される。
私たちもまた、そのように展覧会をつくってきました。しかし、それを繰り返すうちに、一つの疑問が生まれました。
この展覧会は、本当にこの場所で開催する必要があるのだろうか。
そして、その必要性を、この場所の前を行き交う人々にも感じてもらえているのだろうか。
そうした疑問から、この場所だからこそできることが、もっとあるのではないかと考えるようになりました。
この場所、この瞬間にしか存在しない展覧会であることが、地域の人々にとっても、より特別な体験になるのではないか。
そこで私たちは、「この場所、この瞬間の展覧会」という考えを、さらに突き詰めることにしました。
その結果、生まれたのが「一期一会の展覧会」、そして「一期一会から生まれる新しい地域性」という考え方です。
たまたま、この場所の前を、その時間に通りかかったことで出会える展覧会。
作品と出会うには、ヨコスカアートセンターに行ってみなければわからない。
今日、作品があるかもしれない。明日には、もうないかもしれない。
その場所、その瞬間にしか成立しない、一期一会の展覧会。
そんな展覧会をつくろうと考えました。
すると、不思議なことに、展覧会の会期という概念がなくなっていることに気づきました。
そして、あらためて、どのような展覧会をつくるのかを考える機会が生まれました。
そこで着目したのが、ヨコスカアートセンターがこれまで、横須賀で生まれる体験を拡張し、共有するために活用してきたVRという技術です。
こうして、新しいプロジェクト「YAC VR」が生まれました。
ヨコスカアートセンターは、これからも地域に対して、その扉を閉じません。
これまでも、展覧会の開催中だけでなく、展示作業の最中に、地域の方がふらりと立ち寄ることがありました。
何かをしていることが気になって、扉から中を覗く人もいます。
そのとき作品があれば、中へお招きして見ていただく。「これは何ですか」と聞かれれば、その作品について話す。
しかし、その作品は、明日にはもうそこにないかもしれません。
次に訪れたときには、まったく別の土地から届いた、別の作家の作品が掛かっているかもしれません。
展覧会とは、作品がそこにある瞬間そのものでもあります。
私たちは、そこに一期一会の鑑賞があると考えました。
それは、展覧会のために人を集めることとは少し違います。「地域交流」という目的のために、イベントをつくることでもありません。
作品がこの場所にある。
この場所は、地域に開かれている。
そして、そこに偶然、作品と誰かが出会い、交流が生まれる。
作品と地域との関係を、そこまでシンプルなものに戻してみる。
一期一会であるからこそ、その場所、その時間でしか成立しない展覧会になる。
そして、それは地域性をさらに突き詰めた、一つのかたちなのではないかと考えました。
私たちは、この考えをヨコスカアートセンターの新たなプロジェクトの根幹に据えることにしました。
そして不思議なことに、会期をなくすことは、場所をなくすことにはなりませんでした。
むしろ、逆でした。
その作品はVRになる前に、一度、横須賀に実在します。
横須賀の空間に置かれ、横須賀で誰かと出会い、横須賀で撮影される。
横須賀の風景を描く必要もない。
横須賀の歴史を題材にする必要もない。
「地域性」という意味を、作家や作品に背負わせる必要もない。
その作品が一度ここに存在したという事実そのものが、この土地との関係になる。
私たちは、これもまた地域性なのではないかと考えています。
そして、その一度きりの出来事は、消えてしまうわけではありません。
ヨコスカアートセンターで生まれた展示は、360度で記録され、YAC VRによってオンライン上の展覧会へと姿を変えます。
実物の作品は作家のもとへ帰っていく。しかし、展覧会は残る。
横須賀では、一度しか出会えない。
オンラインでは、何度でも訪れることができる。
一回性と永続性。
地域と世界。
実物とデジタル。
その一見相反するものをつなぐ場所として、ヨコスカアートセンターをもう一度つくり直したいと考えています。
私たちが目指しているのは、単に展覧会をVRにすることではありません。
また、現実のギャラリーをオンラインに置き換えることでもありません。
作品が横須賀を通り、誰かと一度だけ出会い、その出来事が記録となって世界へ残っていく。
その循環そのものを、新しいアートセンターのプロジェクトのあり方にしたいと考えています。
作品との出会いは、一期一会に。
展覧会の記憶は、いつでも訪れられるものに。
YAC VRとともに、ヨコスカアートセンターは、そんな新しい場所へと変わっていきます。

