2025年8月21日(木)〜 9月27日(土)
10:30〜18:30
営業日:毎週木曜日、金曜日、土曜日


ヨコスカアートセンターでは茂木敏宏氏の展覧会「茂木敏宏 優しさの浅瀬にて」展 を開催します。茂木敏宏氏は前回開催しました「親子で感じる横須賀 子育てから生まれた作品 」展に出展いただき、ヨコスカアートセンターでは今回が初めての個展形式での展覧会となります。→ https://www.yokosuka-ac.jp/yokosuka_art_center/2023oyakodekanjiruyokosuka/

私たちが見ているこの世界は、本当に誰もが同じように共有している「現実」なのでしょうか。

本展のアーティスト、茂木敏宏は、自らの視覚体験を起点に、「見る」という行為の本質を問い続けています。
緑内障という身体的な経験をきっかけに、彼は「見えているけれど、見えていない」視界を通して、自身の脳が補完し構築する“知覚”の世界へと向き合うようになりました。

他者とは共有できない、しかし、だからこそ彼にとっては確かな「目に見える」もの。
初期の作品群は、視覚に浮かぶノイズやバグのような光景を描きとめる試みであり、それは見えないものの存在を信じ、確かめようとする行為――彼自身の真実を追い求める、切実な探求のようでもありました。

けれど近年、アーティストの制作には静かな変化が訪れます。
かつて「描かなければ」という衝動に突き動かされていた彼は、今、「描きたいものを素直に描く」という自由な喜びへと重心を移しつつあります。
その変化の理由は、本人にもまだ明確に言語化できないのかもしれません。
しかし、その変化が紛れもない事実であることは、並べられた作品を見れば明らかです。

彼は、長く続いた探求の先にあるものを、ついに見つけたのではないでしょうか。
自身の知覚だけを頼りに探し求めてきた答えが、いま、新たな「目に見えるもの」として現れたのかもしれません。

初期の作品が張りつめた緊張感と静けさをたたえている一方で、新作には、柔らかな光と穏やかな時間が流れています。

「今すごくコンディションがいいです」
「心が穏やかだし、優しい気がします」

――その率直な言葉が、彼に訪れた変化と、その到達の喜びを静かに物語っています。

「見る」とは何か――
「描く」とはどういうことか――

本展覧会は、一人のアーティストが、彼にしか見えない世界を探し求め、そしてついにその答えを見つけ出すまでの、壮大な旅路の記録です。



優しさの浅瀬にて
私は普段は「目に見えるもの」というテーマで制作をしています。
「目に見えるもの」とはオバケや幽霊といった類のものではないです。
子供の頃から壁とかをじーっと見ていると「目に見えるもの」は
目のノイズだったりバグではないかと思っています。
5年前に自分の目は緑内障であることが分かりました。
自分では見えているように認識しているけど、実際は視神経が弱くなり見えにくくなっている
箇所は脳が補正をして見ている。「見えているけど見えてない」という事が分かった時
「あ、やっぱりなんか変だったんだ」と妙に納得したのを覚えてます。
そのノイズやバグは自分の日常生活と共にあり「視覚とは。見るとは。」を思案する上でも
「目に見えるもの」を書き続けることで変化などを記録できると思い日々制作しています。
上記のように書いたのですが、最近は「目に見えるもの」から「描きたいものを素直に描く」
ことに興味がシフトしています。
目に見えるものというテーマで、毎日制作していると、描かなきゃ。と言う
脅迫観念のようなものも出てくるのも事実ありました。
それは自分にとって良い事なんだろうか。と考えた時、その強迫観念から離れて描いてみたい
と思ったのが今年の制作です。
正直、今一番心が穏やかだし、優しい気がします。
自分の中で今までよりもっと「絵を描くこと」
が楽しいし、より解像度が上がっています。今すごくコンディションがいいです。
そういう気持ちで描いた新作達と初期の作品を比較すると、作家自身
として「絵を描くこと」への向き合い方の変化を感じます。
初期の作品。新作達。色んな変化や変わってない所もあります。
自分にとっては新作達は実験的でもあります。
是非比較しながらご高覧頂ければ幸いです。

茂木敏宏

茂木敏宏 Toshihiro Moteki

1983年神奈川県生まれ。名古屋芸術大学美術文化学科卒業。紙とペンを用いて「見えるものを描く」を主軸として制作。紙の作品を主に制作する過程で、映像や音楽、写真の作品も制作している。3年前に初期の緑内障である事が判明し「見えるもの」とは「そもそも視覚とは?」と考えながら日々制作、 また日々子育てを行う中で母性や身体についても制作テーマとして取り組んでいる。

主な展覧会
2023年「親子で感じる横須賀 子育てから生まれた作品」(ヨコスカアートセンター/神奈川)
2022年「BankART AIR 2022 SPRING」(BankART Station/神奈川)
2015年「HIDDEN」(ギャラリーヤマキファインアート/兵庫)
2013年「floating images」(ギャラリーヤマキファインアート/兵庫)

コミッションワーク
2025年 DJ MOTIVE 「BIRD MUSIC」アルバムジャケットアートワーク
2022年 Cocco CDアルバム「プロム」ブックレットへ作品提供

茂木敏宏出展展覧会「親子で感じる横須賀 子育てから生まれた作品」
(2023年11月9日(木)〜12月23日(土) ヨコスカアートセンターにて)